奈良を拠点に物流事業を展開する株式会社ハンナ。そのトップに立つのは、一人娘として家業を継ぎ、専業主婦から社長へと歩んできた下村由加里さんです。
「最初は名ばかり社長で、印鑑を押すだけ。名刺を一枚渡すのに手が震えてました。」と笑いながら語る彼女の言葉には、試練を越えてきた人ならではの強さと温かさがにじんでいました。

九代目に託された宿命
下村社長は和歌山県新宮出身の父のもとに生まれ、家を九代目として継ぎました。
「一人娘だったので、いずれは継ぐ運命にあったと思います。事業に関しては社長になるなんて、当初はまったく考えたこともなかったんですよ。」と振り返ります。
父の死や家族の事情から社長に就任したのは20年以上前。当時は会社経営などまったくの未経験。「社員さんの名前を覚えることから始めました」と振り返ります。
父と夫、二人の経営者の板挟み
創業者である父は「お客様は神様」という時代の人。一方で二代目となったご主人は銀行出身で、物流業界の規制緩和による厳しい競争の中にいました。
「父は追い風の時代を知ってるから“これでいい”と言う。でも主人は向かい風の時代で“そんなことしてたら潰れる”って言う。両方の間に立って、私は体調を壊してしまったんです」
家庭もギクシャクし、自身も大病を患うなど、決して平坦な道ではありませんでした。
名ばかり社長から「本物」へ
「最初は本当にハンコを押すだけ。でも社員が相談に来るようになって、“あれ、これおかしいな”と気づくことが増えてきたんです。」
主婦として培った視点も大きな強みになりました。
「主婦やからこそ、“サービス残業って本当に正しいの?”って思えたんです。給料だけじゃなくて、人とのつながりややりがいを感じられる会社にしないと、人は定着しないと気づいたんです。」
「三方よし」を受け継ぐ
社員思いの経営姿勢は、創業者である父からの学びでもあります。
「父は一度会社を潰しているんです。だから仲間を大事にすること、家族と会える時間を守ることを何より大事にしていました。お客様、社員、そして地域——“三方よし”の精神なのです。」
仲間とともに立ち上げた会社の原点にあるのは「共に幸せになる」という理念でした。
熱血プロ集団であるために
ハンナのホームページには「熱血プロ集団」という言葉が掲げられています。
「プロ集団でもええんです。でも、どうせやるなら“熱血”で。熱くならんと楽しめないし、本人が楽しまんと続かないですから。」
社員が仕事を心から楽しめるように。そんな思いを込めて選んだスローガンです。
ロータリークラブでの学び
大きな転機になったのは、ロータリークラブへの入会でした。
「ある先生に言われたんです。『君は会社のトップだろう。無駄なサービスを社員にさせるな。トップはサービスされるんじゃなく、自分もサービスする人でなければならない』と。ガツンときましたね。」
ロータリーでの活動を通して「I serve, We serve」という精神を学び、経営者としての意識が大きく変わったといいます。

奈良の女性たちへ「まず社会とつながろう」
下村社長は、奈良の女性の就業率が全国でも低いことを問題視しています。
「奈良の女性って本当に高学歴。でも結婚して奈良に戻ってくると、家庭優先になって社会と距離を置いてしまう」
だからこそ、まずは社会と関わる一歩を踏み出してほしいと呼びかけます。
「PTAでもボランティアでもいい。社会とつながることで、家庭も、ご主人との関係も変わるんです。」
企業の責任は「継続」にある
「父にも二代目の主人にも言われました。会社の一番の使命は“継続すること”やって。都会なら代わりがあるかもしれない。でも地方は違う。地域で認めてもらった以上、続けるのが責任なんです。」
そのために同社では健康経営を重視。社員や荷主を含め「健康」をキーワードに、地域に必要とされ続ける会社づくりを進めています。
「明日は絶対来ない」
印象的なのは、下村社長が社員によく伝える言葉です。
「“明日やる”っていうのが大嫌いなんです。今やらないひとに明日は絶対来ない。『〇月〇日にやります』って日付で言いなさいって言ってます。人には寿命があるから、今をどう楽しんで、どう人につなげるかが大事なんですよ。」
若い人が「ここで働きたい」と思える会社に
「企業が続くっていうのは、若い人が“ここにいたい”と思えるかどうかです。社員がやりたいことを見つけられる会社であり、地域に必要とされる会社でなきゃダメなんです。」
専業主婦から社長へ——平坦ではなかった道のりを歩んできた下村社長。最後にこう笑顔で語りました。
「どうせやるなら熱く。社員も私も、みんなが楽しいと思える会社にしたいんです。」
【Profile】
下村由加里/1963年、大阪府生まれ。 3人の息子を育てる専業主婦から、2006年に父の創業した株式会社ハンナの代表取締役社長へ就任。 奈良商工会議所議員、奈良県防犯協会理事、日本ロジスティクスシステム協会のロジスティクス経営士の審査員を務めるほか、カンボジア地雷処理地域復興支援などの奉仕活動にも注力している。
【株式会社ハンナ】
オフィシャルHP:https://www.hanna-tp.co.jp/
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Instagram:https://www.instagram.com/hanna_transport/


