【産婦人科医・島本太香子さん講演会ルポ】「女性専用外来」の現場から~意外と知らない「性」と「生殖」のこと~ (プリズム19号)

2026年9月16日(水)、橿原市にある奈良県医師会看護専門学校にて、産婦人科医・島本太香子さんの講演会が開催されました。今回の開催は橿原市と奈良県医師会看護専門学校の共催。会場には看護学校生と一般の方々あわせて約120名が集まりました。


島本さんは奈良大学副学長であり、現役の産婦人科医。奈良県立医科大学附属病院で女性専用外来も担当しています。今回の講演タイトルは『「女性専用外来」の現場から~意外と知らない「性」と「生殖」のこと~』。現役医師として「リプロダクティブ・ヘルス/ライツ」と向き合う島本さんから、その基本理念や最新情報を学びました。講演会のルポをお届けします。


登壇する島本太香子さん。



「リプロダクティブ・ヘルス/ライツ」とは

講演の冒頭で紹介されたのが「リプロダクティブ・ヘルス/ライツ」という言葉。「リプロダクティブ・ヘルス/ライツ」とは、直訳すると「性と生殖に関する健康」および「性と生殖に関する健康を守るための権利」のこと。しかし、島本さんは「『性と生殖』だけに限らず、より広い領域で捉えてほしい」と語りました。

「リプロダクティブ・ヘルス/ライツ」は、日本の従来の「性教育」に近い概念です。しかし、「『性教育』は『性と生殖』にだけコミットした、知識・学びです」と島本さん。「リプロダクティブ・ヘルス/ライツ」は従来の「性教育」とは異なり、「今の行動が未来にどう影響するか」という視点を盛り込んだ概念なのだそう。

「『リプロダクティブ・ヘルス/ライツ』の根底にあるのは、自分の性や生殖に関する健康が守られ、自分の身体や人生について自分で決める権利が尊重されるという考え方です。『リプロダクティブ(reproductive)』は、『再び』(re)と『生み出す』(reproductive)という言葉からなります。再び生み出す、生き物として次の世代を産む営みのすべてが『リプロダクティブ・ヘルス/ライツ』の領域です」

島本さんは「リプロダクティブ・ヘルス/ライツ」の概念を述べた上で、従来の「性教育」について言及しました。

「従来の『性教育』という言葉には、抵抗感や恥ずかしさを感じる人も少なくないかと思います。しかしカタカナ語で『リプロダクティブ・ヘルス/ライツ』と表現すると、少しとっつきやすくなるのではないでしょうか?皆さんには、身構えずフラットな気持ちで『リプロダクティブ・ヘルス/ライツ』について知ってほしい、考えてほしいと思います」



女性が自然に妊娠・出産できる社会を目指す

講演で島本さんは、現役医師としての「リプロダクティブ・ヘルス/ライツ」の事例を語りました。そのひとつが「避妊と妊娠の選択」についてです。

昨今、妊娠に関する技術は進歩し続けています。卵子凍結や体外受精といった技術の進歩によって、妊娠や出産を「いつでも自由にできるもの」と捉える人も増えました。しかし、島本さんはその考え方に疑問を投げかけます。

「卵子凍結には医療行為とされるものと、ノンメディカル(=医療を目的としたわけではない)なものがあります。例えば若い方が、がん治療の影響で生殖機能を失う可能性がある場合、将来子どもを持てるようにするために卵子凍結を行う。これは、医療行為としての卵子凍結です。一方で、好きなタイミングで妊娠するために卵子凍結をしておく、という考え方はノンメディカルな卵子凍結といえます。産婦人科は、ノンメディカルな卵子凍結を推奨しているわけではありません」

そう語りながら、島本さんは妊娠率のデータを元に、技術がどれほど進歩しても女性が妊娠・出産できる期間には限界があると説明しました。つまり、いくら卵子凍結などの技術が向上しても、高齢出産の難しさは変わらないというのです。

「卵子凍結さえすれば自由に妊娠・出産ができるわけではありません。人間に限らず生物はみな、次の世代を産むことに時間の制約があります。本当に大事なのは、卵子凍結をすることではなく、ノンメディカルな卵子凍結をせずとも、女性が産みたいときに自然に産める社会を実現することです。

そういった社会の実現のためにも『リプロダクティブ・ヘルス/ライツ』をみんなで考えていく必要があると思います」



若い人に知ってほしい「痩せすぎと無月経の問題」

島本さんは看護学校生向けに、若い人に特に知ってほしいこととして「痩せすぎと無月経の問題」についても語りました。

無月経とは3ヶ月以上月経が来ないことを指します。「過度に痩せすぎた場合、無月経に陥りやすくなる」と島本さん。月経は健康のバロメーター、将来の健康問題にも影響すると続けました。

また、若い世代の「痩せすぎ」は無月経だけに限らず、将来の骨粗しょう症や乳がんのリスク増加につながるという研究結果が出ているのだそう。まさに「今の行動が未来にどう影響するか」、「リプロダクティブ・ヘルス/ライツ」の重要性を痛感しました。

最後に、これから看護師となる生徒さんたちに、自身のために理解を深めることの重要性を伝えました。

「まずはご自身のために『リプロダクティブ・ヘルス/ライツ』の理解を深めることが重要です。その上で、患者さんの『リプロダクティブ・ヘルス/ライツを支援する側になってほしいと思います。知識を得て、世の中に広く伝えていただけたら、嬉しいです」



来場者の声「高校生の娘にもシェアしたい」

講演後、来場していた女性にお話を伺いました。彼女は市の広報誌でこの講演会を知り、興味を持ったと言います。

「『リプロダクティブ・ヘルス/ライツ』という言葉は知りませんでした。

 私自身、40代後半にさしかかり、閉経や更年期という性に関する問題に直面する時期です。娘も高校生ですから、今日得られた話をシェアしたいと思います」

「リプロダクティブ・ヘルス/ライツ」について語る島本さん。



奥西副学長「自身の体調管理ができる医療従事者に」

奈良県医師会看護専門学校の副校長である奥西志穂さんに、講演会の後に取材しました。

「今回、島本先生には学生の関心や課題を踏まえて、講演のテーマを設定いただきました。学生たちも知識としては知っているけれど、実際に自分ごととして『リプロダクティブ・ヘルス/ライツ』を捉えることは難しい。その中で、現役医師ならではの具体的な話をしていただけてよかったと思います。

 看護師は自分が健康でないといけない、と常々生徒の皆さんには伝えています。それはメンタルもフィジカルもです。自分の体調は自分で管理ができる医療従事者になってほしいなと思っています。『リプロダクティブ・ヘルス/ライツ』を知ったことで、自身の体調や生活を見直すきっかけになれば嬉しいです」

奈良県医師会看護専門学校では、年に2回特別講演を開いています。しかし、一般の方に参加を呼びかけたのは、コロナ禍以降6年ぶりとのことでした。

「今回の講演会は橿原市からのご提案で実現しました。本校には『地域における看護および多職種と協働しながら地域に貢献できる基礎的能力を養う』という教育目標があります。地域医療に貢献できる看護師の育成が、本校の役割のひとつですので、こうやって地域の皆さんと一緒に話を聞いたりイベントが出来たりするのは、ありがたいです。今後も地域と協力して講演会など開催していきたいと思います」

会場の様子。熱心にメモを取る学生たち。


登壇者プロフィール

島本太香子(しまもと・たかこ)

奈良県生まれ。産婦人科医、医学博士。医療・保健行政に携わった後、奈良大学教授を経て、2020年から同大学副学長。

専門は公衆衛生学、産婦人科学、女性医学。現在も奈良県立医科大学附属病院の女性専用外来を担当し、月経や更年期など、女性のさまざまなライフステージにおける健康課題に向き合っている。女性の生涯にわたる健康とヘルスケア、性差医療、ジェンダー、男女共同参画などを研究・教育のテーマとしている。



ライター:吉岡かんな