プリズム14号で特集した「看護師という仕事」。今では「看護師」という呼び方が定着しましたが、2002年の法改正まで「看護婦」「看護士」と男女で異なる呼称が使われていました。
看護師の原点といえば、19世紀イギリスでフローレンス・ナイチンゲール有名です。公衆衛生の重要性を説き、「女性が経済的に自立できるように」という思いも込めて、看護の礎を築いたことで知られています。

では、日本ではどうだったのでしょうか。それを教えてくれたのは、2026年度前期　NHK連続テレビ小説『風、薫る』の原案著者、社会歴史学者・作家の田中ひかるさんです。
2025年9月、奈良県医師会看護専門学校で開催された、田中さんの講演会の模様をお届けします！

【田中ひかる】

1970年生まれ。歴史社会学者・作家。著書に『明治を生きた男装の女医 高橋瑞物語』（中央公論新社）、『生理用品の社会史』（KADOKAWA）などがある。

2026年度前期　NHK連続テレビ小説『風、薫る』

原案著者　社会歴史学者・作家の田中ひかるさん講演会

「令和のナイチンゲールたちへ」

2025年9月。奈良県医師会看護専門学校で田中ひかるさんの講演会が開催されました。きっかけは田中さんの著作『明治のナイチンゲール 大和和物語』（中央公論新社）がNHK連続テレビ小説の原案になったことを報じた記事を、学校の職員が目にしたことでした。記事中で「看護学生と話をしてみたい」と語っていた田中さんにオファー。こうして、明治時代に日本の看護の礎を築いた女性たちの物語が、令和のナイチンゲールたちに届けられたのです。

日本で初めて看護婦の養成所が誕生したのは明治17(1884)年。続々と各地に養成所が設立されました。けれど、この時代の看護教育はまだまだ手探り状態。そんな日本で、看護の礎を築いたのが、大関和（おおぜきちか）と鈴木雅（すずきまさ）という2人の女性でした。

明治時代、日本の女性たちの経済的自立を目指した2人の女性たち

「彼女たちもナイチンゲールと同じく看護婦を、女性たちの経済的自立を実現する職業にしたい、と考えていました」と、令和の学生たちに語る田中さん。

「史料を読めば読むほど、女性たちの自立に大きく貢献した彼女たちを、もっと知ってもらいたいと思うようになりました」

田中さんが日本の看護婦のことを調べ始めたのは、「看護師の仕事内容に待遇が見合っていない」と思っていたからなのだそう。「理由を知りたくて日本の看護史を調べているうちに、和や雅の人生を再現したいと思いました。今回『風、薫る』をきっかけに、看護師という職業に多くの人たちが目を向け、待遇改善や看護師志望者の増加につながれば、と思っています」

「看護婦誕生に奮闘してくれた先輩たちのおかげで今、看護師を目指せている」

講演では日本の看護婦がいかにして誕生したか、公衆衛生がどれだけ重要だったかということが語られました。真剣なまなざしを向け、熱心にメモをとっていた男子学生(2年生)に感想を聞きました。

「ナイチンゲールは授業でも習って知っていますが、大関和さんのお話は今回初めて伺いました。看護婦誕生に奮闘してくれた彼女たちのおかげで、僕は今、看護師を目指せているのだな、と。朝から晩まで勉強が続き、正直疲れが出ることもありますが、今日のお話でモチベーションを上げて頑張れそうです」

講演後、田中氏によるサイン会が始まると、学生だけでなく職員も列に並びました。色紙を用意している人、勉強に使っているノートに書いてもらう人、デバイスの裏に書いてもらう人。もらったサインをうれしそうに眺めていた、2年生の女子学生ふたりにも話を聞きました。彼女たちは「社会人になってから手に職をつけたい」と看護師を志したのだそう。

「田中先生のように、看護師の環境や待遇を改善しようと動いてくださっている方がいるということを、希望に感じました。私も、大関和のように患者さんに寄り添う看護師になりたいです」

「私も和のように子どもがいる状況で、手に職をつけるために看護師を目指しています。女性の自立のために奮闘した和の話に、勇気をもらえました」

明治のナイチンゲール、大関和と鈴木雅はともにシングルマザーでもありました。田中さんの講演は、心強かったことでしょう。最後に、田中さんから未来の看護師たちにエールが送られました。

「今回、奈良県医師会看護学校に伺って、すごく真面目で前向きな生徒さんたちがいらっしゃる学校だな、と感じました。大変なこともあるでしょうが、ぜひ勉強を頑張って、令和のナイチンゲールとして活躍していただきたいです」

地域新聞プリズム14号（12月25日発行）にも掲載しています。
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